絶望の海岸⑥

その地域のおじいさん、おばあさんたちは、
ほとんどみんな、曲がった背中を持っている。
90度に曲がっているのではない。
90度に曲げることが出来るのは、腰だ。
たとえばわたしがお辞儀をするとき、
腰を、30度、60度、90度と曲げて、
そのあと、頭と背骨を、地面に対して垂直な一直線上に戻すことが出来る。

背中が曲がっている、ということは、もう、戻すことが出来ない、ということだ。
その背骨を、80年前の、まだ産まれたばかりの赤ちゃんだった頃のように、
頭と一直線にすることは、たぶん、もう一生できない。

野菜は、地面から生える。
米も、稲は地面より低い田んぼから生える。
豚や牛は、地面で育つ。

10代の頃から、ずっと、仕事場は土の上。
春、土をくわで耕して、はいつくばって、草をむしって、種をまいて。
夏、炎天下で畑一面に水をやって。重いスイカを持ち上げて。
秋、サツマイモを掘って、掘って、掘って。
冬、雪の中、冷たい水で泥だらけの大根を洗って。
そして、一生を終える。
短く切られた爪なのに、土が詰まっていて、洗っても、とれない。

そうやって作られた、野菜を、米を、肉を、
わたしは、買って、料理して、「おいしい」と言って「食べている」。

わたしがおいしいと言いながら食べているのは、
いったい、なに?

ワタシガ タベテ イルノハ ヒト

つづく

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2015年1月7日 絶望の海岸⑥ はコメントを受け付けていません。 絶望の海岸