絶望の海岸⑤

一番背の高い人が、突然、しゃがみこんだ、その頬から、
赤い、透明な、涙が、流れた。
上を向いた時、落ちてきた、その枝が、その左目を刺した。
雪国の短い秋、山へ行ったんだ。
何日も経った夜、目が痛くて泣いていたのを、知っていた。
私たちの身代わりになった目。
はがれた網膜。戻らない。

海岸沿いの、錆びた国道に面した、真っ黒の工場。
雪を溶かすためのスプリンクラーに、海水が混じっているのか、潮風せいなのか、
たとえば、車のタイヤのような黒ではない。
このあたりの車は、よく錆びる。
灼けるような、50度を超す空気。それを、肺に取り込んで、命を削る。

コルセットで、おなかと腰を、死ぬほど絞めあげるのは、
ウエストを細くしたいから、ではない。
重い物を持ちすぎて、腰の骨が壊れているからだ。
おなかを絞めすぎて、腸が変形して、肛門も、変形した。
それでも、100キロを超す鉄の塊を、持ち上げては、下ろす。

…それを望んでいたの?
わたしが存在しなければ、壊れなかった命?

つづく

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2015年1月6日 絶望の海岸⑤ はコメントを受け付けていません。 絶望の海岸