絶望の海岸14

海岸線を走るバスは、さびている。

わたしは、北に向かう。

 

ほとんど悲しみしかなかったはずの場所へ、

向かうことを、なぜやめられないのだろう。

わたしは、何度も再確認する。

自分が生きていたことを。

自分が生きていることを。

 

小さな町のいたるところに残された、

たくさんの怖かったことの痕跡を見て、

自分が生きてきたことを思い出したいからかもしれない。

自分が生きていることを感じたいのかもしれない。

 

生きていると感じることは、痛みを感じることだと思う。

痛みの中を、生きていかなければならない。

 

***

 

小学校高学年の頃、学級全体でバスで出かける時、

わたしの手元に大きな蜂がとまってしまっていた。

 

隣に座ったM君は、その蜂を、

自分は手袋をしているから大丈夫、と言って、

とってあげると言って、とってくれた。

M君は黒い手袋をしていた。

 

バスの窓を開けて、M君は蜂を逃がしてくれた。

 

別の時、

M君は、わたしが知らない間に落としたか取られたかした、

苗字を書いておいた、

手のひらほどの小さなケースに

シャープペン、蛍光ペン、カッター、ボールペン、

シャープペンの芯、クリップ、消しゴム

の7つが入った文房具セットを、

泥だらけになっていたのを砂を落として持ってきてくれた。

 

M君とは同じ中学校に上がった。

下校しようと校舎を出る途中の階段の上の方から、

ある男子が、わたしに、「お前、きもい」と言った。

M君は、その横にいた。

 

M君が、その言葉を否定することはなかった。

わたしは、自分がそう言われたことの痛みよりも、

M君の痛みが、大きく、伝わってきた気がした。

 

***

 

朝が来なければ良いな、

と、思いながら眠る夜がほとんどだった。

今もそう。

 

黄色い通学帽をかぶったわたしが、

まだ一人で歩いている。

もう夕暮れ。

太陽の世界が閉じられる。

 

山には、1日の仕事を終えた巨人が一人、寝そべっていた。

 

わたしは、

月の世界から降ってきた星をつかまえた。

誰にも見られていない、わたしだけの秘密。

その星は、わたしの心の中にある。

 

***

 

あの時、星を抱えたまま、

消えてしまえばよかったのかな。

 

続く

 

 

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