Aの帝国が完全に「同じ」人だけになりきる前に、
すでに「同じ」になってしまった部分を取り除かないと、
A自身が死ぬ前に、その帝国が、
「同じ」まま、動かなくなって、
A自身も消える可能性があるかもしれないことは、
Aは、怖くないのかな?

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6月の暑い日曜日だった。
相撲大会。
家族総出で見に行った。

大会の後、一度家に帰って、
すぐに、地域のバーベキューの集いに行った。
夕陽が沈むまでには、まだまだ時間がある夕方で、
影は影に見えない短かさだった。

家の玄関の鍵を閉めて、
バーベキュー会場へ向かう時。

シロは、自分の家から出てこなかった。

その瞬間、私は、
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「だすもんだしとりゃいいげんや。」
正月にお年玉を渡したら、年老いた母が、私に言った。

わたしが買ってきたケーキを見て、
「お土産タダやぞ!」
(私に何も対価を渡さなくてもケーキが食べられる、という意味)

ある人にお年玉を渡す様子を見たあと、
(「その金をこっちによこせ」とでもいいたげに)
「今からATM行きたいってことは、お年玉いっぱいやってんろ。」
と、母はわたしに言った。

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鼻たれとっても、ほっとかれれんぞ。
(訳:鼻水が垂れていても、ほうっておかれるのだよ。)

マスクもせんと、
(訳:マスクもしないで、)

外国から来た資材を覆っている有毒カビの舞う空気に、
無防備なままの鼻腔をさらしたまま、

夏は雨、冬は雪の降る中、

作業服、
店で売っとる、一番安いやつや、

それを大事に、
普通の洗剤で洗ってもとれない油性の汚れがついても、
擦り切れても、穴があいても、つぎあてして、使って。

その作業着の上から、

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原発の受付。
まわりが、みんな、みる。
おらが、住所と名前を、
ぜんぶ、ひらがなで、書いとる、
それを、みて、クスクスわらう、

あたまが、半分、割れて、手術をした跡がみえる。
「昨日、東京からきたがや。」
(本当に昨日東京から来た人が、
こんなふうに自己申告することは、あるだろうか。)

そう話す人の横に立って、その頭をわしづかみにして、
「あそこへ行って、あれとってくるげんぞ。わかったか?」
その方向を指差しながら、違う色の服を着た男が言った。

頭にライトをつけて、
原発の下にある、人がすっぽり入れる配管内、
海水は、抜いてある。

真っ暗な中、
そこらじゅうににこびりついた、貝や藻を、
一人で、ひたすら、こそぎとっていく。

もし、海水を止める弁が、間違って開いたら、どうなるか、
想像できないもんを、選んで、
違う色の服を着た男は、指図するげんぞ。

つづく

その地域のおじいさん、おばあさんたちは、
ほとんどみんな、曲がった背中を持っている。
90度に曲がっているのではない。
90度に曲げることが出来るのは、腰だ。
たとえばわたしがお辞儀をするとき、
腰を、30度、60度、90度と曲げて、
そのあと、頭と背骨を、地面に対して垂直な一直線上に戻すことが出来る。

背中が曲がっている、ということは、もう、戻すことが出来ない、ということだ。
その背骨を、80年前の、まだ産まれたばかりの赤ちゃんだった頃のように、
頭と一直線にすることは、たぶん、もう一生できない。

野菜は、地面から生える。
米も、稲は地面より低い田んぼから生える。
豚や牛は、地面で育つ。

10代の頃から、ずっと、仕事場は土の上。
春、土をくわで耕して、はいつくばって、草をむしって、種をまいて。
夏、炎天下で畑一面に水をやって。重いスイカを持ち上げて。
秋、サツマイモを掘って、掘って、掘って。
冬、雪の中、冷たい水で泥だらけの大根を洗って。
そして、一生を終える。
短く切られた爪なのに、土が詰まっていて、洗っても、とれない。

そうやって作られた、野菜を、米を、肉を、
わたしは、買って、料理して、「おいしい」と言って「食べている」。

わたしがおいしいと言いながら食べているのは、
いったい、なに?

ワタシガ タベテ イルノハ ヒト

つづく

一番背の高い人が、突然、しゃがみこんだ、その頬から、
赤い、透明な、涙が、流れた。
上を向いた時、落ちてきた、その枝が、その左目を刺した。
雪国の短い秋、山へ行ったんだ。
何日も経った夜、目が痛くて泣いていたのを、知っていた。
私たちの身代わりになった目。
はがれた網膜。戻らない。

海岸沿いの、錆びた国道に面した、真っ黒の工場。
雪を溶かすためのスプリンクラーに、海水が混じっているのか、潮風せいなのか、
たとえば、車のタイヤのような黒ではない。
このあたりの車は、よく錆びる。
灼けるような、50度を超す空気。それを、肺に取り込んで、命を削る。

コルセットで、おなかと腰を、死ぬほど絞めあげるのは、
ウエストを細くしたいから、ではない。
重い物を持ちすぎて、腰の骨が壊れているからだ。
おなかを絞めすぎて、腸が変形して、肛門も、変形した。
それでも、100キロを超す鉄の塊を、持ち上げては、下ろす。

…それを望んでいたの?
わたしが存在しなければ、壊れなかった命?

つづく